インターネット文化をリアル空間に還元する、南村杞憂さんによるインスタレーションの展示を開催します。
◾️展示について
幼少期からインターネット文化に親しんできた南村杞憂。
彼女の作品は、SNSやネットミーム、バズ文化といった現代のオンライン空間で生まれる現象を、独自の視点で物質化し、リアル空間へと還元する試みです。
関西学院大学で哲学を学び、神戸大学大学院で国際文化学を修めた知的バックグラウンドを持っている彼女は、修士論文を「持ちネタ」と呼び、ポートフォリオとして配置しています。
搬入中、「展示をプロップスタイリングみたいに考えている」と南村さんが話していた通り、写真を撮りたくなる空間を作りました。
新作をはじめ、気軽に買えるグッズ、さらにはあまり展示したことのないレアな作品も展示されます。
彼女曰く、作品やグッズは「けったいなもの」。「けったいなスペース」であるユトリ画廊とどういう反応が起こるか楽しみです。
搬入中、ことあるごとに話しかけたパソコン。会期前から愛着がわいています。
南村さんも「愛着湧いてるけど、売れたらうれしい」とのことです。
■開催概要
入場:無料
期間:2025年10月16日(木)〜11月9日(日)
■STATEMENT 作家ステートメント
南村杞憂(ナムラキユウ)と申します。 インターネットミームやネット上で瞬間的に流行るトレンドなど主にインターネットやSNSを巡る事柄を制作テーマにしています。
私はWINDOWS95がリリースされたのと同じ1995年生まれで、幼い頃からINTERNET EXPLORERを使い、ダイヤルアップ接続の音に親しみ、ポストペットが毎日の遊び相手という子供でした。「95年生まれインターネット育ち、ポストペットはだいたい友達」です。 小学生になってBBSやブログカルチャーが流行るにつれて 「インターネットにアップしたものは宇宙のどこかに半永久的に残り続ける」 という大人からの牽制をよく耳にしていました。 ところが、近年の各種ネットサービス終了に際して、もう見られなくなったネット上のサイトやサービスがどれほどあったでしょうか。 NAVERまとめ、ADOBE FLASH、YAHOO!ブログ、INTERNET EXPLORERのサポート終了、そして直近ではTWITTERもサービス名とロゴを変更されることとなり、慣れ親しんだその名前と青い鳥に突如別れを告げることになりました。
なんて刹那的なインターネット。 1000年前の枕草子は読めても、たった15年前のブログはほんの一世にはばかってそれっきり、もうおそらく永久に読めないのです。
もはやインフラと化しているTWITTERもINSTAGRAMもYOUTUBEも、例えばですが、経営者の気まぐれでうっかりいつでも何かの拍子に永久に失われ得る、なんてことを特にユーザーは基本的に想定していません。(ツイッターユーザーにとってはこの意識は全然揺らいでると思いますが) それゆえ、アナログに文書化されたり意識してなんらかの形で保存されたりしないデジタル・ヴアナキュラー(民俗学的な表現で、デジタル空間で自然発生し、市井の人々の生活に深く関連した、権威を持たない土着文化の意)なカルチャーは来るべきインターネット及びそのサービスの消滅と共にこの世から失われてしまう可能性が高いと言えるでしょう。
ところで、TWITTER(これからは✕と呼ぶべきかもしれないですが以下ではわかりやすく TWITTERならびにそれに準ずる呼称で書きます)では「バズ」を想定してウケる作品作りをするカルチャーがあります。トレンド入りしている時事トピックに敏感に反応し話題にちなんだ作品を素早く仕上げてくる人、ツッコミところのあるトンチキな発明品を作る人、任意の事柄について大喜利のようになんらかの作品を作る人。なんせタイムラインをスワイプして一瞥する瞬間にすげえとか面白いとか思わせて「いいね」や「リツイート(投稿の拡散、現在はリポストと呼び替えられています)」をしたくなるようなものを作り、それをSNS上で発表している"おもしろいTWITTERの人"として"おもしろツイード"をして活動しているような層が確かに存在します。「インターネット芸人」なんて表現もありますが、それのものづくり版みたいなイメージです。私もおそらくどちらかといえばこの流れの中で作品作りをしている作り手の一人だと自認しています。 今のところ私はこれを「ネット(特にSNS)土着のフォークアートみたいなもん」だと解釈しています。"みたいなもん"というのはなぜかというと、確かにSNS上にはこの潮流があるにも関わらず、まだアートの世界から発見されていないからか、名付けがされていない創作物ないし創作行為だからです。
今のところ平たく言って「SNSでバズるものづくり」は「キッチュ」でアートたり得ないとされています。 ただ、このあながち時代性に沿ってないとも言えない「バズり」が流行る背景には昨今のコンテンツ消費の様相、また可処分所得と可処分時間の少なさが関わっていると感じています。 消費すべきコンテンツは膨大な量になりつつあり、同時に1つのコンテンツに割く時間はどんどん短くならざるを得なくなり、あと全体的に(若い層は特に)貧しくなってるのもおそらく大きく関わっていて、生活の娯楽の主流は漫然とタイムラインをスワイプし続けたりショート動画を見続けたりすることで得られる弱い刺激をファストフードの如く消費するようなカルチャーと言っても過言ではなさそうです。
こういった風潮の上でなされる作品制作に対して「アート制作はバズ目当てにされるべきものではない」「邪な動機だ」と思う人もいるかと存じます。 ただ、このような「インターネット時代のキッチュな作品制作」をする作り手人口が少なからず存在することは確かで、この「俗悪」はいずれ、今の時代の、殊にSNSを巡る代表的な作品作り=アートとして捉えざるを得ない時代が遅からず到来する予感がしています。
というわけで私はこういった考えを巡らせた結果、インターネットミームをネオン風ライトにしたり、SNS上でのヴァナキュラーな営みに参加したりして、親の顔より見たインターネットをテーマに、いつか永久に失われ得るかもしれないネットのかけらをリアル空間に持ち出してはアーカイブとして形にしています。
■作家プロフィール
南村杞憂(Kiyu Namura)
1995年生まれ。徳島県出身、関西在住。関西学院大学文学部文化歴史学科哲学倫理学専攻卒業、神戸大学大学院国際文化学研究科グローバル文化専攻現代文化システム系領域先端社会論コース博士課程前期課程修了。独学でデジタルファブリケーションの手法を駆使し、インターネットカルチャーやSNS等をテーマに日々けったいなものを制作しています。制作以外にもラジオMCなども務め、現在は神戸のコミュニティFM「FM MOOV」にて毎週水曜18:35〜18:45放送中のラジオ番組「世界の音楽」でレギュラーパーソナリティーとして出演中。好きなものはモンティ・パイソンと小林賢太郎と水曜どうでしょう。
〈受賞歴〉
2021「ミスiD2021」Edge!賞
2023「メタセコイア・キョウマチボリ・アートフェア2023」徳光健治 賞/美術解説するぞー 賞/矢野裕子 賞
2024「第9回 SHIBUYA ART AWARDS」入選
〈個展歴〉
2018 「シールドコイル観察日誌」ギニョール(大阪)
2019 「ERROR302」前衛喫茶マチモ(東京)
2020 「インターネット葬」アトリエ三月(大阪)
2021 「第42回全国オンライン乱痴気外来爆破ツアー」cafe Anamune(大阪)
2022「自発的対称性びりびり」前衛喫茶マチモ(東京)
2023.01 「インターネット葬2.0」アトリエ三月(大阪)
2023.03「Nudge Nudge」iiie(大阪)
2023.09「インターネット・キッチュ」新宿眼科画廊(東京)
2023.12「ちくわ大明神」LAUGH & PEACE ART GALLERY(大阪)
2024.02「kiyunamura _ngy.zip」24PILLARS(名古屋)
2024.04「kiyunamura_osk.zip」cafe Anamune(大阪)
〈メディア&イベント等その他経歴〉
2021.03 「映画『バッファロー’66』公開記念/男の視点・女の視点で作品を読み解くオンライントーク」元町映画館(神戸)
2021.04 徳島新聞にてインタビュー記事掲載
2021.04 「【自由履修科目】南村杞憂概論(単位数2.0)」Loft PlusOne West(大阪)
2021.11 『やさしいニュース』YouTube番組にて特集(テレビ大阪)
2021 .11 「しとちゃんきゆちゃんごきげんトーク」Loft PlusOne West(大阪)
2022.02 Y-PU大学主催講義イベント「 第二回【つくる自分のつくりかた】コンセプトづくり」ゲスト講師出演(大阪)
2022.12 「南村杞憂トークイベント(仮)」梅田Lateral(大阪)
2023.04 メンズファッション誌『FINEBOYS』2023年5月号にてグッズ掲載(日之出出版)
2023.02 バラエティ番組『DEEPな店の常連さんに密着 イキスギさんについてった』出演(TBSテレビ)
2023.08 「Co-create! Another Campus in YOKOHAMA〜ネイキッドロフトをもうひとつのキャンパスにする実験集会〜」Naked Loft Yokohama(横浜)
◾️アクセス
会場:ユトリ画廊 大阪府大阪市北区西天満4-8-1 2F 最寄駅は「淀屋橋」「南森町」です。
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